国連は夫婦別姓を求めているのか

 11月23日の東京新聞に「男女差別法改正 もう放置は許されない」という社説が掲載されました。その中に「国連人権機関は日本政府に民法の差別規定を改めるよう再三勧告。女性差別撤廃委員会は昨年、改善状況を一年内に報告するよう求めたが、日本政府は国会答弁を並べた無責任な報告をした。」という一文がありますが、日本政府と女子差別撤廃委員会とのやりとりで、今回気づいた点について書き留めておきたいと思います。

 東京新聞が「無責任な報告」だとするのは、今年11月に日本政府が国連の女子差別撤廃委員会に提出した追加的情報提供のことだと思いますが、先ずはこれまでの経緯を整理しておきたいと思います。拙ブログで、国連の各人権条約と各委員会については何度か取り上げてきましたので、ご承知のことと思いますが、国連の各人権条約には条約の履行状況を定期的に委員会に報告することが義務づけられていて、女子差別撤廃条約の場合は女子差別撤廃委員会に定期的に報告書を提出しています。

 今回の場合は、平成20年4月に日本政府が第6回報告(※イ)を提出したのに対して、平成21年8月に女子差別撤廃委員会の見解(※ロ)が示され、さらにその見解でフォローアップを求められた事項について、平成23年8月に最終見解に対する日本政府コメント(※ハを提出し、それに対して同年11月に委員会の見解(※ニ)が示され、その中で1年以内に追加的情報を提供するように求められたことに対して追加的情報提供(※ホ)を提出したものです。

※イ 女子差別撤廃条約実施状況 第6回報告
※ロ 女子差別撤廃委員会の最終見解 
※ハ 女子差別撤廃委員会の最終見解(CEDAW/C/JPN/CO/6)に対する日本政府コメント
※ニ 女子差別撤廃条約最終見解に対する日本政府コメントについての委員会の見解
※ホ 女子差別撤廃委員会の最終見解(CEDAW/C/JPN/CO/6)に対する日本政府コメントに係る追加的情報提供 

 さて、そのような流れの中で、東京新聞も取り上げている夫婦別姓の部分を見てみますと、日本政府の報告を英語に訳す、その反対に委員会の見解を日本語に訳す時に微妙なニュアンスの違いがあるのではないかと気づきました。

 もう一度、上記の遣り取りを整理してみますと、

イ)日本政府第6回報告(日本語→英語に翻訳)
ロ)女子差別撤廃委員会の最終見解(英語→日本語に翻訳)
ハ)最終見解に対する日本政府コメント(日本語→英語に翻訳)
ニ)日本政府コメントについての委員会の見解(英語→日本語に翻訳)
ホ)追加的情報提供(日本語→英語に翻訳)

となるのですが、それぞれの文書で夫婦別姓がどのように原文と訳文で表現されているのかを見てみますと、

イの中の第16条では
原文 「選択的夫婦別氏制度」
訳文 「adopt one of their surnames」

ロの中のパラグラフ18では
原文 「a system to allow for the choice of surnames for married couples」
訳文 「選択的夫婦別氏制度」

ハの中では
原文 「選択的夫婦別氏制度」
訳文 「a system which allows a married couple to retain separate family names」

ニの中では
原文 「allows for the choice of surnames for married couples in line with article 16(g) of the Convention」
訳文 「女子差別撤廃条約16条(g)の規定に沿って夫婦に氏の選択を認めること」

そして、今回提出したホの中では
原文 「選択的夫婦別氏制度の導入」
訳文 「the introduction of a system allowing a husband and wife to adopt separate surnames of their own accord」
となっています。

因みに条約の第16条(g)は
原文 「The same personal rights as husband and wife, including the right to choose family name, a profession and an occupation」
訳文 「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)

 こうしてみてみますと、国連の条約や委員会からの見解では「separate」という言葉が使われたことはなく、「choice of surnames」或いは「choose family name」であり、条約の訳文にも「別氏」という言葉はないのですが、委員会の見解を日本語に訳す時に「選択的夫婦別氏」としたり、日本から提出されたものを「separate surnames」「separate family names」と英訳していることがわかります。

 もしかすると、女子差別撤廃委員会が求めているのは、夫婦別姓ではなく、ファミリーネームの選択の自由であって、現行の国内法による夫または妻の姓を選択することで問題ないのではないかと思うのですが、如何でしょうか。

◇【社説】男女差別法改正 もう放置は許されない (東京新聞 平成24年11月23日) 

 夫婦が選択的に別姓を名乗れることなどを柱にした民法改正の約束は民主党政権でも破られた。国連や司法の“勧告”を受け止め、国会は早急に改正を実現させるべきだ。立法の不作為は許されない。

 日本が一九八五年に女子差別撤廃条約を批准したのを受け、法制審議会が男女差別につながる規定を見直す民法改正要綱を答申したのは九六年のこと。選択的夫婦別姓▽法律婚でない両親から生まれた子ども(婚外子)の相続差別撤廃▽婚姻年齢の男女同一化▽女性の再婚禁止期間短縮-などが盛り込まれ、すぐにも改正をと期待されたが、自民党時代は一部議員の強硬な反対で、改正案は提出されなかった。

 それだけに、要綱案が出て十三年後の二〇〇九年の政権交代では一気に期待が膨らんだ。民主党は野党時代から議員立法として民法改正案を出しており、政権交代後は政府提出予定法案にもしていたが、内部に異論も出て、結局、政府案も議員立法案も一度も提出されずに終わった。

 政治の不作為に対し、司法からは憲法違反の指摘も出ている。婚外子相続差別をめぐる裁判では高裁で違憲判断が相次ぐ。大阪高裁は昨年八月、婚外子の相続分を結婚している夫婦間の子の半分とする規定は憲法に反するとして、婚外子に同等の相続を認め、立法による是正を促す判断をした。

 改正の象徴ともいえる夫婦別姓はあくまで選択制だ。同姓も使えるため、自民党にも改正は当然とみる大物議員がいる。婚姻で姓を変える九割以上は女性で、職場などで通称使用も認められるようになってはいるが、万能でない。元最高裁判事の泉徳治弁護士は「婚姻で姓の変更を強制するのは、自分らしく生きるという人格権の否定につながる」と指摘する。

 改正反対派は「夫婦、親子で別の姓を名乗るのは家族崩壊につながる」と主張する。本当だろうか。法で傷つけられる者の人権や、多様な生き方よりも優先される考え方とは思えない。

 国連人権機関は日本政府に民法の差別規定を改めるよう再三勧告。女性差別撤廃委員会は昨年、改善状況を一年内に報告するよう求めたが、日本政府は国会答弁を並べた無責任な報告をした。

 民主党とともに、議員立法案を提出してきた社民や共産もこの間は法改正への具体的な取り組みを怠ってきた。総選挙では民法改正も候補者に問いたい。人権感覚をみるバロメーターになる。



この記事へのコメント

いろは
2013年01月09日 02:08
民主党の時ですからね、わざと異なる訳をして、東京新聞がミスリード出来るよう狙ったように思えますね。
落蹲
2013年01月09日 07:12
いろはさん、コメント有り難うございます。
> 東京新聞がミスリード
は、その通りだと思います。
mariママ
2013年03月05日 16:01
東京新聞は 中日新聞が買い取ってから変質したようですが、名古屋の中日新聞、ひどすぎますね~
落蹲
2013年03月06日 08:08
mariママさん、コメント有り難うございます。
地方紙はどうしてそうなのでしょう。北海道新聞も同じくです。

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