札幌市の例(3)

 前回、条例制定を前提としたパブリックコメント実施後に、多くの市民から反対の陳情が寄せられたことをお伝えしましたが、その内容について、引き続きWING SAPPOROの記事を転載させて頂きます。

WING SAPPORO(平成20年6月号)
最後に、札幌の市民が札幌市議会に提出した意見書を読んでいただきたい。
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(要旨)
「札幌市子どもの権利条例」の制定に反対します。
(理由)
「札幌市子どもの権利条例」は、昨年2月の第1回定例市議会で、、「子どもの権利を守るためには現在の施策の充実で十分対応可能であり、権利の乱用が懸念される中、条例制定に踏み切るのは時期尚早ではないのか」「条例案の文言にあいまいな表現が多く、解釈に幅が出てくると思うが、大事な権利だからこそ明確な定義が必要であり、慎重に論議すべきではないのか」などの意見が出て、否決された経緯があります。今回の修正はこのような点を全く考慮していない僅かな修正であり、このような案が上程されることは市民の代表が議論する場である市議会を軽視しています。
また、条例の内容も昨年の市議会で指摘されたような極めて危険な内容であり、このような条例が制定されないことを強く陳情いたします。

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(要旨)
「札幌市子どもの権利条例」を制定しないことを強く求めます。
(理由)
「札幌市子どもの権利条例」制定の理由に国連の「児童の権利に関する条約」が挙げられていますが、同条約に批准する際に、国は「憲法や締結済みの国際人権規約A及びBの範囲内であり既存の国内法規で保障されている」として同条約に伴う特別な立法措置や予算措置を取っておりません。
にも関わらず、地方自治体が国の頭越しにこのような条例を制定する必要が認められません。
また、条例の内容も同条約の権利の部分のみを取り上げ、同条約がその全文にある「極めて困難な条件の下で生活している児童が世界のすべての国に存在すること、また、このような児童が特別の配慮を必要としていることを認め」「あらゆる国特に開発途上国における児童の生活条件を改善するために国際協力が重要である」といった趣旨から逸脱しており、このような条例が札幌市において制定されないことを強く陳情いたします。

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(要旨)
「札幌市子どもの権利条例」が制定されないよう強く求めます。
(理由)
今回の「札幌市子どもの権利条例」案は、昨年2月の定例市議会で指摘された子どもの権利の濫用について何の制限も加えられていないばかりか、逆に救済制度について事細かに制定されていますが、
このような救済制度の弊害が全国で起こっています。
一昨年、外務省で開催された「児童の権利条約に関する意見交換会」が特定の団体ばかりが出席して公開もされなかったことが問題になり、5月12日に再度意見交換会が開催されましたが、その中で川崎市の人権オンブズパーソンの悪弊が報告されております。それによれば、公立小学校のある教師が、授業中に立って歩き、クラスメイトとおしゃべりする生徒を大声で叱責したところ「大声で注意をしたり、聞き入れられない時には腕を強く引っぱるなどの言動があった」人権侵害だと認定されて、オンブズパーソンが介入し、教師と校長は謝罪させられ、教師は研修を受けることになったといいます。その後は児童が授業中漫画を読んだり、教科書を見ながら答案を書いても教師が注意して聞かなければ放置するしかなく、その児童を注意した同級生が逆に注意される状況に陥っているそうです。
 また、早くから子どもの権利オンブズパーソンを設置した兵庫県川西市では、ある中学校で授業態度を注意した教諭に反抗したり暴言を吐いたりした生徒に対し、他の生徒の妨げとなるために別室で指導したところ、オンブズパーソンが生徒の権利が保障されていないと勧告し、県弁護士会に人権救済を申し立てたという事例もありましたが、このような例を見ますと、オンブズパーソンがある一方の思想を持った人で組織され、更に強力な権限を与えたために、オンブズパーソンから勧告を受けた側の人権が侵害され、救済される制度がないことがわかります。
札幌市においてもこのような制度を含んだ子どもの権利条例を制定されないことを強く陳情いたします。

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(要旨)
権利ばかりを強調する「札幌市子どもの権利条例」が制定されないよう強く求めます。

(理由)
条例案には子どもの権利ばかりが強調され、権利を行使するにあたっての濫用防止規定がありません。善意に解釈されれば良いのかもしれませんが、これでは偏った思想を持った一部の者に悪用されかねません。憲法や条約にあるように制限を明文化すべきです。

 例えば日本国憲法には次の条文があります。
第一二条 この憲法が保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第一三条 すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 また、オートノミー(自己決定権)の思想が色濃い条約の条文第12~15条ですらそれぞれ次のような制限が設けられているのに、札幌市の条例案には一言もなく、心配です。

第12条では、「この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする」「児童は、特に自己に影響を及ぼす司法上及び行政上の手続きにおいて……聴取される機会を与えられる」とあり、意見の表明はあくまでも児童の発達段階において考慮され、また自分に影響を及ぼすことに限定されています。

第13条では、「権利の行使については一定の制限を課することができる」として「他の者の権利又は信用の尊重」「国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」のために必要な場合は法律によって制限できるとしています。

第14条では、「父母及び場合により法定保護者が児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法で指示を与える権利及び義務を尊重する。」としてあくまでも保護者の管理下にあることを明記しています。

第15条では、結社の自由及び平和的な集会の自由について「権利の行使については、法律で定める制限であって国の安全若しくは公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳の保護又は他の者の権利及び自由の保護のため民主的社会において必要なもの以外のいかなる制限も課することができない」として一定の制限を付しています。

 このような制限を設けることがなく、児童の権利に関する条約を拡大解釈した例として所沢高校での国旗国歌問題、国立第二小学校での校長先生への土下座要求、広島での人権教育などが挙げられます。
 こうしたことが起きないように、危ない子どもの権利条例が制定されないことを強く陳情いたします。


 こうした内容の反対陳情が、なんと424件も市議会に寄せられたのです。因みに推進陳情が295件、一部削除の要望が1件、計720件という異例の数の陳情があり、札幌市議会文教委員会で、反対、推進それぞれ8名が陳情の説明を行うことになりました。その結果、6月の定例市議会では継続審議となったのです。その時の様子を北海道新聞が次のように伝えています。

◇札幌市「子どもの権利条例案」市議会に陳情720件 反対424件、推進は295件 (北海道新聞 平成20年6月2日)

 札幌市議会文教委員会は二日開かれ、子どもの権利条例案に対する陳情の審査を行った。陳情数は議会事務局が「これほど多いのは異例」という七百二十件。同条例案は継続審議となる見通しだが、陳情内容を説明した十七人は「権利の乱用につながる」「子どもを守れ」と、賛否それぞれの考えを訴えた。

 市本庁舎の市議会委員会室は、用意された約百席では傍聴者が収まらず、廊下にもいすが並べられた。

 条例案は「権利」や「義務」への考え方など、市議会各会派の政治的立場を浮き彫りにした。このため、各支持者・団体が競って陳情を提出。陳情は反対四百二十四件、推進二百九十五件、一部削除の要望一件と異例とも言える件数に上り、反対、推進各八人と一部削除一人がそれぞれ趣旨を説明した。

 反対派の一人は、「子どもの権利が独り歩きし、(学校に理不尽な要求をする)“モンスター親子”をさらに増やし、モラルや秩序の低下につながる」として教育現場での混乱を強調した。

 また、別の説明者は「子どもが権利を振りかざして、父母の指導を拒絶することが多くなれば家庭崩壊が進む」と懸念を語った。

 これに対し、推進派は「日本は、子どもの自殺率が先進国でトップ」「多くの子どもが環境悪化の中心で苦しみ悩んでいる」と子どもの窮状を訴えた。

 また、説明者の一人は「(条例制定で)学校に圧力がかかるという誤解があるが、そうではない。子供たちが誰にも相談できなかったことが、支援というソフトな側面で救済される」と話した。


◇札幌市子どもの権利条例案 市議会委 継続審議に(北海道新聞 平成20年6月3日)

 札幌市議会文教委員会は三日、子どもの権利条例案を継続審議とすることを決めた。上田文雄市長は昨年四月の選挙で圧勝したことを背景に、開会中の第二回定例会での成立に全力を挙げていただけに、今後の市政運営に影を落としそうだ。

 条例案の取り扱いについて採決を行い、継続審議とすることに自民党、公明党、自民維新の会が賛成。民主党・市民連合、共産党、市民ネットが反対した。五対五の同数となり、公明党出身の委員長が継続審議を決めた。

 採決に先立つ質疑では、委員の「権利の乱用につながる」との懸念について、上田市長は「条例案は国連の『子どもの権利条約』を地域の実情に合わせてかみ砕いたもの」と述べ、子どもの権利は条約に基づくものだとして理解を求めた。

 ほかにも、委員からは「条文の『他者の権利を尊重』という表現だけで、権利の乱用を防ぐことができるのか」「子どもをめぐる問題は、さらに深刻になっている」と、条例案への賛否両論が相次いだ。

 条例案は昨年二月の市議会で否決され、一部修正した上で第二回定例会に再提出されていた。

この記事へのコメント

うろこ40
2010年11月28日 22:30

目からうろこです・・・
すばらしいブログですね
落蹲
2010年11月29日 13:54
うろこ40さん、コメント有り難うございます。
札幌の場合は危険性に気づいた有志が反対活動を展開したので、お伝えしているような状況でしたが、ほとんどの自治体では一般の市民が知らないうちに制定されているのではないでしょうか。
うろこ40
2010年11月30日 22:47
落蹲さんありがとうございます
私はこの権利条約なるものがどういうものか全然知りませんでしたし、自分自身に子どもがいなければそんなに興味をもたなかったと思います。子どもの権利条約ってなんだぁ、っと思ってましたが、考えさせられますねぇ
私が中高生の時は「大人ってうぜぇ」と思ってましたが、やっぱり規律って大事だと大人になってわかるものですよ。これは何だか子どもの犯罪を増やすためのものって感じましたねぇ。少しずつ読ませてもらってますよ 
落蹲
2010年12月01日 16:16
うろこ40さん、コメント有り難うございます。
小生が変だなぁと思い始めたのは、男女共同参画条例なるものができて、女の子だけがスカートをはくのがおかしいとか、男女混合名簿で男女一緒に身体検査を行う、というような事例が出始めた頃からです。
国連には、いくつかの人権条約があり、女子差別撤廃条約に基づいて国の男女共同参画基本法ができ、自治体に同条例が出来はじめたのですが、その頃から人権条約推進派では次は児童の権利条約だといわれていました。
少しずつですが更新していきたいと思いますので、今後とも宜しくお願いします。<(_ _)>

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