函館市の子どもの権利条例を考える

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zoom RSS 函館市子ども条例制定検討委員会の提言書(たたき台)

<<   作成日時 : 2014/08/09 22:20   >>

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 一昨年設置されました函館市子ども条例制定検討委員会も、大詰めを迎えてきているようです。第10回から第16回までグループ討議が行われていたようですが、先般7月25日に開催された第17回委員会では、「(仮称)函館市子ども条例制定検討に係る提言書(たたき台)」について、全体協議が行われています。

 第16回の資料にあります今後のスケジュールを見ますと、この後、8月と10月の2回にわたって提言書の取りまとめが行われ、11月には提言書を市長に提出する予定になっていますので、残り2回の委員会で、提言書のたたき台を検討するものと思います。

 それでは実際に「仮称)函館市子ども条例制定検討に係る提言書(たたき台)」を見てみたいと思います。目次は次のようになっています。

T 条例の制定にあたって
 1 条例制定の背景と趣旨
 2 条例の基本理念
 3 条例の性格
 4 子育てに関する社会の各主体の役割と連携
 5 条例の基本理念に基づく重要な取組
 6 市民が共有できる表現を用いること

U 函館市における子どもの現状と課題
 1 子どもの現状
 2 家庭環境の現状と課題
 3 学校教育の現状と課題
 4 事業者の現状と課題
 5 地域社会の現状と課題

V 「子ども観」の議論について


 目次を見ても分かるように、「V 「子ども観」の議論について」として委員会としての子ども観が2つに分かれたことを、提言に盛り込む予定のようで、最後に「どちらの考え方も必要」とはしていますが、提言としては珍しいことではないでしょうか。それだけ委員会の中でも2つの子ども観が対立していたのでしょう。

 そのことは、各項目にも表れています。先ず「T−2 条例の基本理念」では基本理念として次のように3つ挙げています。

(1)人権の尊重
 すべての子どもは、生まれた時から人権を有し、一人の人間としてかけがえのない存在である。「子どもの最善の利益」が実現される社会を目指すことを基本に、子どもの視点に立ち、いじめや虐待等のない、子どもの生存と発達が保障される社会の実現を理念とする

(2)健全育成
 すべての子どもは、全面的に庇護すべき存在として生まれ、成長の過程において、保護者や家族だけでなく、学校や地域社会のなかで、周囲の環境と関わりながら、個性や自分らしさを認められ、他者を思いやる心と社会性を育み、発達段階に応じて、「生きる力」を身に付けていくことができるよう育成していくことが必要であり、このことを健全育成の理念とする。

(3)子育て支援
 家庭は教育および保育の原点であり、保護者は子育てについての第一義的な責任を有する。また、保護者が子育てについての責任を果たすことができるよう、子育てに対する負担や不安、孤立感を和らげ、親として自信を持って子どもと向き合える環境を整え、子育てや子どもの成長に喜びや生きがいを感じることができるよう、環境を整え、支援を行うことを理念とする。


 また、「T−3 条例の性格」では、次のように書かれています。

 当初、検討委員会においては、子ども観が2つの考え方に大別されたことから、条例の性格についても、次の2つに大別された。すなわち、

 @人権の尊重を主眼とする条例
 A健全育成を主眼とする条例

の2つであるが、これまでの検討により、次のようにまとめた。
「人権の尊重」と「健全育成」は対立する関係ではなく、一体的に捉えていくべきものであり、両者が最終的に目指すところは子どもを安心して育てられる社会をつくることである。
 市が条例案を作成するに際しては、この検討委員会で意見が出された2つの性格を充分に考慮した上で、市民が共有できる性格として位置づけることが望まれる。


 そして、最後に「V 「子ども観」の議論について」として次のように委員会で2つの子ども観に大別されたことを説明しています。

 子どもは生得的に人権を有し、幸せに健全に育まれていくべきであるということは、万人の共通認識である。しかしながら、家庭における育児、幼稚園・保育園における幼児期の教育・保育、小・中・高等学校における学校教育を含め、子どもとはどのような存在であり、どのような可能性を有しており、彼らにどのように関わっていったら良いかという点では、様々な考え方があり、この検討委員会においては、2つの考え方に大別された。

@ 子どもの権利を強調した子ども観
 子どもが自らを成長させることは子どもの生来的な権利であり、まず、自分が権利を持っているということや他の人の権利を尊重しなければならないということを学び、自分を守る力を持つということが重要であり、自分の体験を通して自分の道を切り開いていくことが自己肯定感につながっていく。
 子どもの個性や意見を尊重するが、幼い子どもについては、生命を守ることを第一義的に考え、発達に応じて子どもの意見を受け止めるということを考えるべきであり、子どもの言うことを何でも聞くということとは違う。

A 教育の必要性を強調した子ども観
 大人同様子どももコミュニティの中で生きており、好き勝手にすべきではないことを子育てのポイントに押さえておくべきである。子どもは社会の中で多くの文化を学び、人と関わる中で「生きる力」が育まれる。人間は社会の中で生きていくということをしっかりと伝えるべきで、子どもが自立心、公徳心、社会性を自ら育んでいくためには、トイレトレーニングや箸の使い方などのしつけはもとより、小学校での読み書き、そろばんなどの教育を通じての社会化は不可欠であり、適度な刺激、ストレスは重要である。子どもが自分の考えを他者にしっかりと伝える力を育むことは特に重要であり、仕事を通じて、社会に貢献できる人間になることが大事であることを子どもに伝え続けることこそが必要である。そうしたことから学齢期に鍛えられることも必要であり、受験制度が全くの悪とは言えない等の意見が出されたところである。

B ふたつの子ども観の類似点と相違点等
 両者の子ども観を詳細に検討すると、全く相反しているというわけではない。一方、子どもに自由を十分に与えることと、ある程度コントロールして育んでいくということを共存させていくことは非常に難しい。
 子どもは自分で考え、行動する機会を与えられるならば、子どもなりに一生懸命考え、持てる力を発揮する。周りが自分の存在を認めてくれているということがわかれば子どもは安心して成長していくし、愛着をもてる人がひとりでもいれば子どもは安心するものである。また、自分のことを否定しないで肯定してくれる人がいれば子どもにとって安心感につながる。
 社会は厳しく、子どもの時は真綿のような柔らかいもので守られているが、子どもから少し真綿を取った方が良い場合もある。逆に社会を真綿でくるむのも良いと考える。
 子ども観については、どちらの考え方も必要であり、子どもをどこまで支援するのかは立場によって意見は様々であるが、「どう育ってほしいのか。」、「子どもをどう育てるのか。」という考え方に基づき、条例に表現されるべきである。


 こうして提言書のたたき台を見ますと、権利条例とするか、健全育成条例とするのかに意見が分かれていることがわかります。それは、子供を保護の客体と見るか、権利の主体と見るかの違いによるものですが、パターナリズムと呼ばれる保護の客体という考えからオートノミーと呼ばれる自己決定権、つまり権利の主体への変遷は国連の児童の権利に関する条約を制定する過程においても見られ、また両方が入り交じった条約が矛盾を抱えてしまっていることは、拙ブログでも取り上げました。

【ご参考】(拙ブログ)
児童の権利条約ができるまで@
児童の権利条約がきでるまでA−保護を受ける権利一
児童の権利条約ができるまでB−オートノミーの権利−
児童の権利条約ができるまでC−条約の審議過程−
児童の権利条約ができるまでD−条約が抱える矛盾−

 また、こうした経緯で条約が制定されたために、未だに米国は批准していないことも以前取り上げました。
【ご参考】(拙ブログ)
児童の権利条約に批准していない米国

批准している国々も、全面肯定しているわけではなく、西ドイツは批准する際の解釈宣言の中で、

「本条約が『子どもの権利』について語る場合、条約は、子どもが自らの自立的な意思でこの『権利』をいつでも行使できるとか、代理人を立てて裁判所で主張できるとか言っているのではない。……ここでは保護的措置に対する子どもの位置関係が概括的に『権利』という言葉で表現されているにすぎないのである。」

という解釈を行い、条例の提案国であったポーランドでさえも、

「条約12条から16条の権利は、家庭内における子どもの地位についてのポーランドの慣習と伝統に添って、parental authorityの尊重の下に行使されるものとする。」

という解釈宣言をしているほどなのです。(拙ブログ「児童の権利条約ができるまでC−条約の審議過程−」参照)

 それでは日本の国としての対応はどうかと言いますと、これも以前拙ブログで取り上げましたが、条約を批准する前に開催された平成5年5月11日の衆院外務委員会で、

「条約第十二条から第十六条に定める権利は、日本では憲法によって保障されております」

「ただ、このような憲法で保障されている基本的な人権も、その行使は無制限に認められているものではなくて、公共の福祉による制限を受けるとともに、特に、心身ともに発達途上の段階にあります児童につきましては、学校において校則等によりその行動等に一定の制約を加えて指導を行い得るものというふうに解されております」

「予算措置につきましても立法措置につきましても、関係省庁といろいろ検討しました結果、そういう条約上の義務を実施するという観点からの新たな立法措置、法令の改正、こういったものは必要ではないという結論に達したわけでございます」


という答弁がされていますし、また、批准後の平成8年に国連の児童の権利委員会に提出された日本政府の第1回報告書の中でも

「これらの内容の多くは、我が国も既に1979年に締結している経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約に規定されていること、また、憲法を始めとする現行国内法制によって保障されていることから、この条約の批准に当たっては、現行国内法令の改正又は新たな国内立法措置は行っていない」

とされていて、現在に至るまで、国としては条約に基づいた法律は制定されていません。

【ご参考】(拙ブログ)
国連の児童の権利に関する条約

 このように国では児童の権利条約に基づく法律は制定されていませんが、青少年健全育成基本法案は以前国会に提出されたことがありますし、現在も制定に向けて、青少年健全育成基本法の制定に関する請願が国会に提出されています。つまり、国では、権利については既に現行法によって保障されているので新たな法律は必要なく、法律を制定しようとしているのは健全育成に関するものであることがわかります。それを函館市の条例に子供の権利を盛り込まなければならない必要性があるでしょうか。

 また、提言書のたたき台では、子供を保護の客体と見る子供観と権利の主体と見る子供観のどちらの考え方も必要としていますが、拙ブログでは、子どもの権利条例を制定した自治体で具体的な問題や、権利条例自体の問題についても取り上げてきましたので、ご参照頂ければと思います。

【ご参考】(拙ブログ)
テーマ「子どもの権利条例の問題点」のブログ記事
神奈川県川崎市の例
兵庫県川西市の例
テーマ「各地の条例」のブログ記事





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